Octave~届かない恋、重なる想い~

 それでも、雅人さんの前では泣いたことはなかった。

 私の都合に付き合わせる形で始まった結婚で、雅人さんにとっても多少は都合が良かったかもしれないけれど、やはり私には負い目があったから。

 
 私は初めて、雅人さんの胸にすがりつきながら泣いていた。

 私の涙でダークグレイのスーツが黒っぽく変わってしまっても、雅人さんは辛抱強くなだめてくれた。

 背中をそっと撫でてくれるのは、私を早くなだめて説明させようとしているからだとわかってはいるけれど、今はそれに甘えてしまおう。


「ゆっくりでいいから、話してごらん」

 この体勢だと、雅人さんの顔を直視することなく、話すことができる。それが有り難かった。

 時々しゃっくりをしながら、私は懸命に伝えた。


 立花さんという生徒が、今、支援を必要としていること。

 母親に無職の恋人ができ、生活が苦しくなっていること。

 生活保護費から出ているはずの修学旅行費を、使い込まれてしまっていること。

 修学旅行費が払えず、学校へ行きたくない、家にも帰りたくないという、追い込まれた状況になっていること……。
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