Octave~届かない恋、重なる想い~
 ひとり、ベッドの上で考える。

 これで本当に良かったのだろうか、と。


 父が倒れた、と連絡が来た時、私は職場で家庭科の授業をしている最中だった。

 調理実習もそろそろ終わるという時に連絡を受けて、すぐに実家近くの病院へ車を走らせた。


 緊急手術の結果、一命はとりとめたものの、父には言語障害と左半身の麻痺が残ってしまい、静養とリハビリが必要だと診断される。

 つまり、父の政治家としての命は、ここで終わってしまった。


 市議会議員を6期務め、議長となった父は、次の市長選に立候補するつもりでいた。

 60歳という、政治家としてはまだ若い父の無念は、察するに余りある。

 もうすぐ任期満了というこの時期だというのに、父の後継者などまだいる訳もなかった。

 母には荷が重すぎる。会社を経営する伯父には無理。

 弟の敦史はまだ大学3年。事実上の後継者だけれど、被選挙権を得るまであと4年も待たなければならない。
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