Octave~届かない恋、重なる想い~
「児童相談所に保護されたきっかけは、学校からの通報だった。
 母が投げたワインの瓶が俺の顔に当たったんだ。
 頬にできた青あざと、普段の様子から、虐待を疑ったんだろうな。
 そのまま、ちしま学園への入所が望ましいとされて、高校卒業まで施設で暮らしたよ」


 それで、お正月も帰るところがなくて、我が家へ来ていた、という事だったとは。


「全然、知りませんでした……」

「そんな両親の子どもだけど、良かったことがひとつだけあってさ」

「……何ですか?」

「大して勉強しなくても、成績だけは良かった。
 これはきっと、父親の遺伝子だったんだろうな。母親も看護学校では成績優秀だったそうだ。
 児童相談所に保護されたら必ず知能検査を受けることになってるんだけど、結果はかなり良かったらしい。
 ちしま学園は、ボランティアで大学生が週に2回、勉強を教えに来てくれる。
 そのお陰で大学入試も苦労しなかった」

< 52 / 240 >

この作品をシェア

pagetop