守護者たちの饗宴 ―エメラルド・ナイト―
「先入観で判断するな。

戦場では命を落とすぞ」


 ぐうの音も出ずにダグラスは再び資料に目を落とす。


 コンツェルンのトップエグゼクティブの娘とその婚約者に執事ねえ。

娘と婚約者は僕と同い年か。

ったく、こっちは彼女一人いた事無いってのにいいご身分だね。

おまけに執事まで付いてるし、よっぽど甘やかされているんだろうなあ。

日本人は子供っぽいっていうし、わがままに付き合わされなきゃいいけれど。

あー、それより何よりベリルに惚れちゃって愛憎トラブル劇場になる方が心配だ。

大体、ベリルは自分の容姿に無頓着すぎるんだ。

依頼人に女がいると大抵目をハートマークにしてベリルを見てるしさ。

フォローを入れるこっちの身にもなってほしいもんだよ。


 ダグラスは一旦思考を区切るとちらりとベリルに視線を向けた。

輝く金色のショートヘアに全てを見透かすような光をたたえた切れ長のエメラルドの瞳。

シャープな顎のラインと細身だが均整のとれた筋肉質の身体はルネサンス期の彫刻を彷彿とさせる。

同性であるダグラスでさえもその美しさから目を離せない時があるのだから、異性であるなら尚更ベリルに心を奪われないほうが特殊なのだ。

老成した口調とは裏腹に、外見は二十代中盤ほど。

卓越した技術と豊富な知識、いつまでも美しく若々しい肉体を併せ持つMarvelous Mercenary(素晴らしき傭兵)――。

それがベリル・レジデント。

養父はダグラスにとって恩人であり、憧れであり、この世で一番尊敬する師であった。
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