明日なき狼達
 正しく身体一つで財産を築き、念願の実業家へと転身した加代子は、元が男に身を売って稼いでいたから、極端に男というものを信用していなかった。

 全ての男が、下心があるものと考えていた。

 青山に対しては、一切そういった見方にならず、自分の会社に引き抜いて早々、要職に就かせた。

 熱を上げていたのは、当然加代子の方だったが、初めの頃は、加代子がどんなにモーションを掛けても、青山は誘いに乗らなかった。

 半年もせずに、青山は加代子の一声で、社長室長に就任した。

 秘書的な役割もこなし、誰から見ても、加代子の寵愛を受けても仕方無いなと言われる位に仕事をこなした。

 ある日、加代子は酔った勢いで青山をホテルに誘った。

 青山は、無言でついて来た。だが、この夜は最後の一線を越さないようにした。

「私がおばあちゃんだから抱けないの?」

 加代子は青山を責めるような物言いで詰め寄った。

「いえ、おばあちゃんだなんて……好きな女性だからこそ、こんな形で社長を抱きたく無いんです。
 社長は信じてくれないかも知れませんが、僕は社長の一時の想いでそいいう関係にはなりたくありません。僕は……憧れてました……。
 その気持ちは今も変わりありません。人を好きになるのに、年齢差なんて関係無いんだと、初めて知ったんです。だから、だからこそ、こんな形じゃなく……」

「青山君、それ以上言わないで……」

 加代子は自分の言葉も言い終わらないのに、その唇を青山の唇で塞いだ。

 加代子の心に火が点くと、それは激しい迄に炎を上げた。

 二人の関係が、公の場でも特別なものだと知れる位、あからさまなものになって行った。

 中には、青山の過去を訝しんで加代子に注意を促そうとする者も居たが、加代子に聞く耳は無かった。

 男に対して、加代子程百戦練磨な女は居ないにも関わらず……。

 青山は巧妙に狼の姿を隠した。

 正しく、羊の皮を被った狼であった。

 その狼が、少しずつ正体を現し始めた時、既に加代子の資産管理に迄影響を及ぼすだけの立場になっていた。

 加代子に海外不動産の投資と、外資の証券取引会社への出資を奨めた。

 それが一年前の事であった。

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