明日なき狼達
「日本の株価の変動は、殆ど外国の投資家達が投じる巨額の資金によって操作されてます。個人投資家が財を成せる時代は、バブルで終わったんです。社長のお持ちになっている資産を、海外の投資家に回す事で、税金対策の一環にもなります。インターナショナルファンドの極東支社長とのコンタクトは取れてます。是非、一度お会いになってみて下さい」

 加代子に是も非も無かった。

 青山に盲目的とも言える信頼をしていたから、全ては青山の思惑通りに事が運んだ。

 そして、一年……。

 加代子は全ての財産を失ってしまった。

 数千億円もの資産を掠め取った青山だが、本来、これだけの大仕事を一人でやれるだけのタマではない。

 二丁目のウリセンバー時代からの繋がりで、青山にはパトロンとも言える男が居た。

 日本の裏社会のみならず、政界や財界にも顔が利く男。

 名前を滝沢秋明(たきざわしゅうめい)と言う。

 日本に残った唯一のフィクサー。

 数々の疑獄事件に関わりながらも、ただの一度として警察や司法の手が及んだ事が無い男。

 日本最大の暴力団の組長はおろか、一国の総理大臣ですら顔色を窺う男。

 青山は、その滝沢の男妾になっていた。

 一時期、芸能界へ進出したのも、滝沢の尽力であった。

 滝沢は、老いても尚、欲望の塊のような面を押し出していた。

 色欲、物欲、地位、名誉、とにかく人間社会のありとあらゆる欲というものを、自分一人の手にしなければ納得しないような男であった。

 ニシダビューティクリニックに目を付けたのは、滝沢が最初であった。

 乗っ取り易い会社の典型である、ワンマン体制……

 しかも、成り上がりの女社長……

 青山が催したホテルでの宝石の販売会も、滝沢が加代子を引き寄せ、青山を近付けさせる為に催したものであった。

 滝沢は、加代子という羊に、青山という餌を与え、肥え太らせ、そしてその牙で貪り掛かったのである。

 その滝沢から、青山に国際電話が入った。

 プライベートビーチでつかの間のバカンスを楽しんでいた青山は、一瞬、興醒めしたような表情を見せた。ホテルのボーイが持って来た受話器の向こうから、薄気味悪い程の猫撫で声が聞こえて来た。
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