明日なき狼達

滝沢秋明

(青山君、バカンスは充分に楽しんでるかい?)

「ええ……」

 受話器越しであっても、青山は滝沢の目に見えない威圧感を感じていた。と同時に、腹ワタが腐ったような腐臭を嗅いだ後の不快感に襲われる。

 滝沢という人物について、青山は、出会った当初何も知らなかった。

 ウリセンバーで働いていたとはいえ、嫌いなタイプの客とは絶対に寝なかった。相手がどんなに金持ちや資産家であっても。

 全ての者達が、自分に迎合して来るものだと意識していた滝沢にとって、青山は新鮮な獲物に思えた。

 何度も足しげく通い、漸く手に入れた時、滝沢は、青山の足元に平伏すようにしてその喜びを表した。

 何故、青山は滝沢の男妾になったのか……

 同じ時期、青山目当ての女性客が居た。

 青山も、その客に好ましい感情を抱き、何時しか男と女の関係になった。その女が厄介な女だと気付いた時、青山はにっちもさっちも行かない状況に陥ってしまった。

 関東一の広域暴力団の会長の囲い者であったのだ。

 二人の関係が知られると、店に数人の男を従えて、会長がやって来た。青山を店から引きずり出し、男達は乗って来た車に押し込もうとした。そこを偶然にも滝沢が通りかかり、青山の窮地を助けたのである。

 恩が出来てしまった。

 命を失うかも知れない所を助けて貰ったから、それなりの代償は払わなければならない。

 青山は滝沢の男妾となった。

 この経緯には裏がある。

 全ては滝沢が仕組んだものだったのだ。

 青山が好みそうなタイプの女を店に差し向け、それを暴力団の会長の妾という設定にした。

 窮地に陥った青山を、助け出す事によって、自分の懐に抱え込む……

 会社乗っ取りの時と同じだ。

 滝沢は、一旦目を付けたものは、どんな手を使ってでも手に入れる。あらゆる手段を使えるだけの財力と、コネと権力を持っていた。当然、青山はそんな裏があったとは、あれから十年以上経った今も判っていない。

 青山は、滝沢のコネを利用する事で、毎夜の苦痛を意識の外に置く事にした。

 自分が玩具にされながらも、意識の中では、何時かこの男から今以上の代償を得ようと考え、妖し気な炎を燻らせていたのである。
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