明日なき狼達

転落の過去……

 二日酔いで痛む頭のこめかみを抑えながら、野島は電車に揺られていた。

 J&Jでしたたかに飲んで酔い潰れた。

 あんなに痛飲したのは何年振りだろうか。

 長年連れ沿った女房に、突然離婚を切り出された時以来かも知れない。

 警察官僚のキャリアとして順調に出世の階段を昇っていながら、ある事件に関わった事で、その階段は突如として崩壊した。

 その日以来、仲が良かった筈の夫婦仲が、少しずつ妙な具合になって行った。

 別れた妻とは、当時勤務していた本庁の上司からの紹介で知り合った。妻の父親も、警察官僚だった。

 見合い結婚に近い感じで一緒になったが、本人は普通に恋愛感覚を抱き、半年程の交際期間を経て式を挙げた。全ての者に祝福された。

 付き物の転勤にも、妻は嫌な顔一つせず、寧ろ、

「ねえ、今度は何処になるのかしら。私、九州とか、南の土地に住んでみたいの」

 などと、半ば本気でそんな事を口にする位だった。

 その事件は、野島が地方での転勤を終え、いよいよ警察庁での本格的なキャリアを積もうかという時期に起きた。

 ある大物代議士の娘婿が、覚醒剤密輸に絡んでいる事件を捜査しているうちに、突然ストップがかかった。見えない圧力が掛けられた事は明白だ。

 こういう事は、別段珍しくも無い。政治家絡みではよくある事だ。別段、この事で野島は腹立ちを感じたりはしなかった。

 どうせ、娘の父親が手を回したに決まっている。

 ある日、たまたま過去の捜査資料を整理していた時、偶然にも、これ迄暗礁に乗り上げた事件の捜査資料がまとめられた棚を見つけた。それらを手にして何気に読んでいると、横に居た同僚が、

「それ、アンタッチャブルだろ。読んでみると面白いけど、余り他人に見られない方がいいよ。他人を蹴落としてまで上に昇りたい連中の格好のターゲットにされるぜ」

 と言われた。

 アンタッチャブルとは……

 本庁内での隠語である。

 触れてはならないもの……

 様々な理由からアンタッチャブルに回される未解決事件が存在する。その殆どが、警察官僚絡みであり、政治家絡みであったりする。

 野島は同僚の警告にも関わらず、暇な時間にそれらの資料を読み進めて行った。
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