明日なき狼達

内閣調査室の男

 本庁時代に面倒を見た後輩の吉見と連絡を取ろうとしたが、出向中との事で、なかなか連絡を取れなかった。

 野島は仕方無く、別な後輩に電話をしたが、明らかに以前とは違う態度が受話器越しにも判った。ただ、その後輩のお陰で、吉見の所在が判った。

「先輩、俺から聞いたなんて言わないで下さいよ。あそこの人間の名前を漏らしたのが判ると、始末書だけじゃ済まなくなる」

 厳重な守秘義務で守られた場所……

『内閣調査室』

 俗に内調と呼ばれているセクション。

 内調は、旧防衛庁時代に、アメリカのCIAや、旧ソ連のKGB等の諜報機関を模して作られた、総理大臣直属の機関である。

 職員の殆どが、自衛官上がりだが、中には警視庁や警察庁からの出向を命ぜられた者も居る。

 吉見が内調勤務になっていたと聞いて、野島は好都合だと喜んだ。内調をもってすれば、手に入らぬ情報は無い。海外のネットワークもある。ただ、吉見からどれだけの情報を聞き出せるかだ。それ以上に、退職した野島に会ってくれるかどうかの問題もある。

 その辺は考えてある。

 余り使いたく無いが、背に腹は抱えられない。

 吉見には変わった性癖があった。野島はそれを偶然知った。上役に知られれば、考査ポイントに響く。吉見の家は、代々家族全員が警察官僚という家系だ。その性癖が周囲に知れてしまうと、100%昇進は無くなる。

 少し汚い手だが、その辺を突いてやるか……

 霞ヶ関に行き、内調が入っているビルの前で、吉見を捕まえる事にした。

 張り込みなら何時間掛かろうが手慣れたものだ。一カ所で長い時間立っていると目立つので、適当に周辺を歩きながら、内調の建物を視野に入れて置いた。

 丁度昼時となり、周辺のビルから人がどっと溢れ出て来た。

 目を凝らして内調のビルを見ていた野島の目に、見覚えのある男が飛び込んで来た。

 分厚い眼鏡をかけ、きっちり七三に髪を分けて刈り上げたヘアスタイル。

 今時の中年サラリーマンでさえしない野暮ったい雰囲気……

 吉見だ。

 野島は周囲を注意しながら吉見に近付いた。人の流れが切れる頃合いを見計らい、声を掛けた。

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