明日なき狼達
「よっ!」

 偶然を装って吉見に声を掛けた。

「野島さん……」

 吉見の表情からは、困惑の色が読み取れた。

「久し振りだな。元気そうじゃないか」

「……はあ」

「今一人か?」

「ええ、まあ……」

「丁度昼時だ。どうだ、飯でも一緒に。積もる話しもいろいろあるし」

 どうしたものかと躊躇している吉見を強引に誘った。

 嫌だって言ったって、こっちはそうは行かないんだ……

「俺は宮仕えを終えて身軽だから、飯代位は奢るぞ。そうだな、天ぷらにするか、いや、鰻にしよう」

「……」

 野島は、有楽町のガード沿いにある鰻屋に吉見を引き連れた。

 カウンターの奥に座敷がある。個室になってるから、込み入った話しをするには都合が良い。

「余り時間が無いんですが……」

「判ってるよ。お前、今、何課だ?」

 内調勤務を知っているという事をとぼけながら探りを入れた。

「野島さん……知ってんでしょ。知ってて僕を昼飯に誘ってんでしょ……」

 流石だ。内調勤務になるだけの事はある。ならば話しは早い。

「しゃあねえな。じゃあ、ざっくばらんに腹割って話すぞ」

 注文した鰻が来た。

 黙々と二人は箸を付けた。

 食べ終わり、お茶を啜りながら尚も二人は黙っている。

 痺れを切らして吉見の方から話しを振って来た。

「何か知りたい事があるんでしょ?退職後の仕事に関係した事ですか?」

「まあ、そんな所だが……今でも内調じゃ滝沢の事をマークしてんのか?」

 いきなり核心を突いた。

 吉見は別段驚いたふうも無く、分厚い眼鏡の奥から射るような目付きでじっと野島を見つめた。

「仕事は興信所か何かですか?企業の買収絡みか何かの……」

「まあな」

「野島さんの知っての通り、うちはあの男にはさほど関心が無いんで……」

 嘘だ。

 情報機関という所は、普通の人間が思いも寄らない事に迄調査の手を広げる。千、一万の情報の中から、何か一つでも得られる物があれば……

 重箱の隅を突かせたら、内調以上の所は日本中の何処にも無い。

 唯一肩を並べられるとすれば、商社の調査部位であろうか。


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