明日なき狼達

横浜港

「……という訳何だが、皆はどう思う?」

 吉見との話しを聞かされた皆は、答に窮していた。野島が危惧してるのと同じように、罠では無いか?

 という思いと、話し通りに行けば余生を悠久自適に送れる……

 といった考えがそれぞれの頭の中で去来した。

 そんな中、一人児玉だけは別な思いでいた。

 自分の余生はもう少ない……

 明日、妻や娘の居る黄泉の世界へ旅立ったとしても構わない……

 娘が死んでからこの方、生きる事に何も意義を見出だせないでいた。

 生きていたのでは無く、生かされていた。

 最後の死に花……

 例えは余り良くないが、児玉の胸の内は、それに近いものであった。

 野島の話しを聞きながら、四肢に力が漲るのを久々に感じていた。

「こういう事は、余り深く考え過ぎても……返事の時間がそろそろですから、先ずは先方にイエスの返事を致しましょう」

 野島の促す言葉に、皆、頷いた。

 吉見に電話を入れた。

「返事はOKだ。で、段取りはどうする?」

(そちらは何人いらっしるんですか?)

「俺を入れて六人」

(判りました。明後日の午前6時迄、みなとみらいに来て下さい。そこで、全ての手順をお教えします。必要な物も、こちらで全て揃えて置きます)

「判った」

 賽は投げられた……

「ダイヤを奪った後はどうするんですか?」

 松山が野島に聞いた。

「正直、まだその先の事は考えてない」

「別にいいじゃないさ、あたしと神谷はハワイにでも飛ぼうか」

「姐御と俺が?」

「あら、嫌なのかい?いいのよ、別にあんたじゃなくたって、若くて活きのいいのは幾らでも居るんだから」

「私の方は、もう少し滝沢を追い詰める事にします」

 梶は、興信所の階段ですれ違った青山の祖母の姿を思い出していた。

「松山さん、そう言えば、貴方が関わった事件の発端である警官殺し、真犯人は郷田貢という男らしいですよ」

「郷田?雨宮とかの間違いでは無いのですか?」

「内調の調べだから、間違いは無いと思いますよ。雨宮ってのは?」

 松山は、澤村から聞いた話しをした。

「同一人物で偽名を使っている可能性もありますな」


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