セク・コン~重信くんの片想い~
「ははは、まあゆっくりしてってよ。ここのおススメはハンバーグセットだよ。デミグラスソースのオムライスも人気だけど」
 そう言いながら、優木さんは続いて恵太と美雪ともしっかりと握手を交わしながら言った。
 しかしながら、優木さんのおススメ品を聞く前からすでに4人の注文は決まっているのだった。
「「「「ハンバーグセットで」」」」
 見事に四人の声が重なり、少しびっくりしたような顔をしていた優木さんだったが、
「了解! ちょっと待ってて」
と、ウィンクすると、張り切った様子で厨房へと入って行った。

 重信は、アオイのバイト先の店で、こうして注文品を待っていることを、まるで夢のように感じていた。何より、すぐ目の前にはあのアオイがいるのだから。
 ほんの少し前までは、互いに話すこともなかった二人。それなのに、秋風に紛れて突風のようにアオイは重信の心に入り込んできた。
 それからというもの、重信はどれだけ彼に近づきたいと考えていたことだったか。
 この何日間で、予想以上の早さで重信はアオイと距離を縮めていた。勿論、それは”友だち”という名目に他ならないが。

「ところで、なんでずっとニット帽かぶったまま?」
 うっすらとレモンの香のする水を口に含みながら、恵太が何気なくアオイに訊ねた。
「脱げねぇんだよ。練習中ずっとメット被ってっから、髪がペッタンコっつぅか……」
「ああ! なるほどね!」
 美雪がポンと手を叩くのを横目で見つつも、重信はこっそり口元が弛みそうなのに耐えていた。
 美味しいハンバーグセットが手元に届くまでの幸せな時間の筈だったが、幸せはそう長くは続かないもの。やはり人生は甘くないらしい。
「お待ちどう」
 店長の優木さんが湯気の上がるハンバーグセットをトレーに載せて運んできてくれたと同時、喫茶店の扉がついていた鈴をカラカラと鳴らし、開かれた。

「アオイ?」

 突然店の中に響いた高い声に、四人がハンバーグセットから視線を上げた。
 腰のあたりまで伸びたうねり一つ見当たらない真っ直ぐな黒髪。すらっと伸びた長い手足は、どこかしらの雑誌のモデルのようだ。そして身体に吊り合った小顔には、気の強そうな大きな目。和風美人という呼び名がぴったりきそうなこの少女を、重信は密に苦手なタイプだな、と心の中で呟いた。
(あの服、確かと隣町の栄華女子学院の……)
 あまり制服に詳しくない重信さえも知っている、有名なお嬢様校である。
「今日バイト入ってなかった筈でしょ? なんでここにいるの?」
 つかつかと歩みより、バンとテーブルを叩くと、少女はアオイに問い詰めるような目を向けた。
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