セク・コン~重信くんの片想い~
「永遠子(とわこ)……。何そんなに怒ってんだよ」
 運ばれてきたハンバーグセットを手前に引き寄せると、アオイは特に気にした様子もなく、ハンバーグにナイフを突き刺し始めた。 
 永遠子と呼ばれた少女は、訝しげに重信達の顔をぐるっと一周見回すと、
「だって、今日練習は? 練習あったからバイト抜いたんじゃないの?」
 と、強い口調でアオイに言った。
 ハンバーグセットのおいしそうな匂いは、重信の食欲をひどくそそったが、突然の永遠子というこの少女の出現で、どうしてもハンバーグに手をつける気になれない。
(だ、誰だ、この子?!)
 黙ったままじっと静かに膝に手を添えている恵太と美雪も、きっと重信と同じことを考えているに違いない。
「練習はあったぞ。けど、今日昼過ぎで終わりだったし、午後はこいつらと映画行ってきた。んで、今その帰り」
 フォークに突き刺したハンバーグを大きく口に頬張ると、アオイはそう答えた。
 ……が、その馬鹿正直な答えが、どうやら永遠子にとっては物凄く気に障ったらしい。怒りを露わにして、肩を震わせている。
「何それっ! いつも永遠子が誘ったら、練習忙しいとかバイト入ってるって断るくせに、この人達とは遊びに行くんだ!?」
 手をつけていないハンバーグに咄嗟に視線を戻しながら、重信はふと考える。
(ん……? これじゃまるで……)
  永遠子の様子を気にもしない素振りで、アオイはハンバーグを次々に口に放り込んでいく。ものすごい早さだ。これなら、早食い競争でチャンピオンも夢じゃない。
「そりゃたまたまだろ? ってか、永遠子、いつもタイミング悪いんだもん」
 むすっとした顔をして、永遠子は重信たちの顔をじろりともう一度見回した。

「……バイト上がったら電話するから。絶対出てよ!」
 捨てゼリフを残して、永遠子は勢いよくカウンターの中に入って行った。
 その後に取り残された恵太と美雪は、ぽかんと口を開けて彼女の入って行ったカウンターを見つめている。一方で重信はテーブルの下でぷるぷると握った拳を震わせていた。
(バイト上がったら電話するだと!? これじゃ、これじゃまるで……!!)
「まるでアオイの彼女みたいね」
 美雪が冗談めかして言った言葉は、まさに重信の心の叫びだった。
 重信の中で、一気に焦りと不安と腹立たしさと、なんとも言葉では言い表せなような気持ちがふつふつと沸いてくる。
「ただの中学んときのクラスメートだよ。口うるせぇオカンみたいな女だろ?」
 いつの間にはハンバーグもライスも残さず平らげてしまったアオイは、ついていたコンソメスープをすすりながら笑った。
(笑いごとなのか……??)
 重信はぶすっとしながらも、やっとナイフとフェークを手にしてハンバーグを口に運ぶ。
 想像以上の美味さに、思わずさっきまでの苛立ちがほんの少し薄まった気もするが、それで
もまだ、あの永遠子とアオイの関係が腑に落ちないでいた。
(ただのクラスメートだと!? ただのクラスメイトなのに、永遠子って呼び捨てにするか!? 夜中に電話するか!?)
 疑念は膨らむばかりである。









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