セク・コン~重信くんの片想い~

「でも、誰にも話したことないだ。ぜってぇ誰にも言うなよ!!」
 顔を真っ赤にして、アオイが再びコロッケパンに噛り付く。
「分かってる」
 重信は、目を閉じて静かに笑った。
 好きだと自覚した途端の失恋。けれど、予想はしていた。きっと、相手はあの永遠子という少女なのだろうと、なんとなくそう思った。
「そういうハギはどうなんだよ? 好きな人いねぇの?」
 ほんの二、三口でコロッケを平らげると、パック牛乳にストローを刺し、アオイが逆に質問
を返してきた。
「いる……かな。失恋したけど」
 しかも失恋したのはたった今だ。
「え!? ハギでもフラれんの!? モテんのに!?」
 アオイのとんでもない言葉に、重信は思わずアップルジュースで咽せ返る。ごほごほと咳をする重信の背を擦りながらアオイは言った。
「もしかしてお前知らなかったの? ハギってすげぇ鈍いのな。実は女子にモテモテなんだぜ、お前。その身長だしなー」
 アオイにそう言われて初めて、自分が他人にどう見られているのかを知ったのだった。それ
もそうだろう、今まで周りの女子なんか気にもしたことさえなかった。ずっと重信の目には恵太という存在しか映っていなかったのだから。

「ハギ。腹減った」
 アオイの口にシーチキンパンを咥えさせながら、重信は小さく笑った。
(どういう訳か、今回は俺もそう簡単には諦めきれないみたいだ)
 彼の中で、確かに胸に感じる失恋の痛みとともに、新たな決心が芽生え始めていた。
「友だちなら、互いの恋愛事情くらい知っておいてもいいだろうしな」
 シーチキンパンを頬張るアオイの黒い髪を、くしゃくしゃと掻き乱してやると、重信は柄にもなく声を上げて笑った。


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