セク・コン~重信くんの片想い~
 その言葉を聞いて、重信は咄嗟に一人の少女の顔を思い浮かべた。
(まさかな……)

 きっと同じことを考えていただろうアオイも、半信半疑といった感じで校門の方を窓からちらっと除いた。

「はあ……、まじかよ」
 アオイがうんざりとしたように、重信を振り返った。
 重信も校門に目を向ける。すると、その目にはっきりとその人物を捉えた。
「永遠子ちゃん」
 目立つ赤のチェック柄のスカートに、緑のブレザー。そして、モデルのようにすらりと伸びた長い手足。腰のあたりまで伸ばした黒髪は、この三階の校舎から見ても美しくなびいている。
 アオイのポケットから、ブーンブーンとバイブレーションの音が響き、アオイはごそごそとスマホを取り出す。
「ちっ、やっぱ永遠子だ!」
(今、舌打ちしたよな?)
 重信は、はっきりと聞こえた舌打ちに、はっとする。

「おう、なに?」
 ぶっきら棒に電話に出るアオイの隣で、重信は苦笑を浮かべた。
 このところ、永遠子の一方的なアタックだと分かってからというもの、重信は彼女に対して敗北感のようなものを感じなくないっていた。けれど、やはり彼女に対する苦手意識というものは、どうも拭い切れない。
「おう。あ、そうなの? んー、分かった」
 アオイが電話ごしに永遠に相槌を打つのを聞きながら、重信にほんの少し嫌な予感が沸いてきた。
(できれば永遠子ちゃんとだけは顔を合わせないで済ませたい……)
 そんな重信の願い虚しく、
「悪い、ハギ。なんかバイト先の客が店に忘れもんしたらしくて、届けないといけなくなっちまった……」
 スマホをポケットにしまいながら、アオイは申し訳なさそうに重信を見た。
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