セク・コン~重信くんの片想い~

「ふぅん。結構腫れてるんだ」
 開かれたカーテンの隙間に、今最も顔を合わせたくない人物の一人が顔を覗かせていた。
「小柴さん……でしたっけ? なんであんたがここに?」
 嫌悪感丸出しの声で、重信はそう言った。慌てて、近くに島田と大寺が潜んでいるのではないかと、ベッドから飛び起きる。カーテンの向こう側に気配を感じとろうとしたのだ。
「へぇ。俺の名前知ってんだ? って安心しなよ。今は龍介も連太もここいは居ないから」
 重信の心境を察したのか、小柴はふふんと鼻で笑った。

「今度は何しに来たんですか?」
 すっかり警戒心を抱いてしまった重信は、小柴が何かするのではないかと密かに身構える。
「ひどいな、別に何もしないって。美術で彫刻してたら指切っちゃったもんだから、単に怪我の手当てに来ただけだってば」
 小柴は、切ったばかりの右手の人差し指を重信に証拠表示とでもいうかのように、見せつけた。
 まあ、嘘ではないようで、止血の為に押えたハンカチにうっすらと血が滲んでいる。
「っていうのもあるけど、来たついでに萩本くんの様子も見ていこうかなってな感じ?」
 そう言うだけ言って、小柴はくるりと反転すると、カーテンの向こう側にある救急用の机に手を伸ばした。消毒液の入った容器を取り出し、自ら手当てを始める。が、利き手を怪我しているせいで、ひどくやり辛そうそうだ。
「貸してください」
 小柴の手からピンセットを奪うと、消毒液を含んだ綿を容器の中から摘み出した。
「いいよ。自分でやるし」
「左手じゃやりにくいでしょ」
そう重信に言われて、小柴はそれ以上反論しようとはしなかった。言われたままに、怪我した指を重信に預ける。その後は、静かに黙って重信に手当てをされていた。
 その間、小柴がまじまじと重信を見つめていたことに、重信自身は全く気付いていなかったのだが。
< 76 / 104 >

この作品をシェア

pagetop