蓮華〜流レルママニ〜



…なのに、さらにその翌週、つまり今週の木曜そして6月10日の今日と続けざまに休んだ。

『天明〜天明〜ご乗車誠に有難う御座います。お降りの際には〜』

車内のアナウンスが駅に到着した事を知らせると、学生達がとろとろと進む間をすり抜け、素早く下車した。

この天明の駅から、家まで歩いて10分とわりと近い。
そんな距離も今日はというか最近はやけに遠く感じる。気持ちが急いているからだ。

『千草に会いたい』

その気持ちが俺の足を速める。

車内でも何度名前を反復させ、頭を巡っていただろう…
何故こんなに千草に依存しているのか…

その理由も、顔を見た瞬間に吹き飛んでしまう。

住宅が密集する団地住まいな為、家の近くまでくると、知った顔もちらほら見え、すれ違い様に軽い会釈を交わす。

それでも同期の連中に会わないかと気が気でない為、目線はさり気なく斜め45度下に向け歩いてる。

千草の家は、俺の家から数軒隔てた所にあり、かなり近い。二階建てで、広めな庭があり5人家族の葵家が住むには充分な造りだ。


『葵』と書かれた表札を目の前にして、インターホンを鳴らそうかと、右手を差し出したと同時に、後ろからトーンの高い声で呼び止められた。
< 79 / 98 >

この作品をシェア

pagetop