蓮華〜流レルママニ〜


昨日の夜、確かに手渡した傘が、そのまま放置されてある。


いや、正確には一度は渡そうとした手を払われた為、天海先パイの傍に傘を置いて、

私は、その場を後にした…


あの後、どうしたのか気になっていたけど…


この置き去りにされた傘をみる限り…

…あのまま

ずぶ濡れで帰ったのかな……

……


どしゃ降りの雨の中、傘も差さずに…

ただ…海に向かって、一点だけを見つめてた…

その姿は、どこか哀愁漂い、頬を伝う雨が…
まるで涙のように見えた…


天海先パイ…大丈夫かな……



…――私が、天海先パイを初めて目にしたのは、中学一年の時。

体育館のコートの中で、華麗にシュートを決め、仲間とハイタッチを交わし、満面の笑みを浮かべる天海先パイは、2年生で既にバスケ部のエースだった。

スラリと伸びた上背に雰囲気のある佇まい、プレイ中になびく髪、切れ長でかつ優しい瞳…

そのどれもに、女子達は心奪われ、学年問わず憧れの的だった。


私もその内の一人。

でも、いつも遠巻きから他の友達と声援を送っていただけで、天海先パイは私の事なんか知らない。

話した事すらなかった。
話しかける勇気さえもなかった。

ただ…



いつも天海先パイの
背中を追いかけてた――…
< 96 / 98 >

この作品をシェア

pagetop