real world


『君が好きだよ。』とか、『僕が一緒に生きてあげる。』とか、


いろいろ言いたいことがあったはずなんだ。


なのに目がさめた花音を見たら、そんな言葉なんて吹っ飛んでしまっていて、



”おかえり”



その言葉しかいえなかった。


君はあきれてしまっただろうか?


僕が彼女を見つけて、この東郷病院に運び込まれたとき、生きるか死ぬかの瀬戸際の状態だった。


十羽先生も駆けつけてくれていたけど、あくまで彼女の専門は精神内科だ。


治療は内科の先生に任せるしかなかった。



『花音ちゃんはね、あのときから、心を壊したままで、治らないんだ。』



ICU(集中治療室)の前にあるベンチに座って、十羽先生はそう言った。



『たいていの患者さんはな、薬と・・・時間が解決してくれてた。まぁ私の持っていた患者が軽度だったって言われればそれまでなんだけど。あれだけ人間不信な子は見たことがなかった。君も気づいているんだろう?あのこはふわふわ笑いながら、人を拒絶している。・・・自分を守るために。』



『気づいていますよ。花音が自分を守るためだけに拒絶しているわけではないってことも。』



人を傷つけることのないように。


大切な人を失くさないために。


いつもいつも。


いままで、頑張ったね。
 


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