突然現れた王子
「ほんとか!? さんきゅー!」
そう言って笑った男の顔が、とても愛くるしく見えた。
「お前、名前なんていうの?」
「あたし? あたしはアユだよ」
「アユか。よろしくな」
そう言って差し出す男の手に、あたしは自分の手を重ねた。
きつく握りしめて握手を交わす。
「そっちは? 名前何?」
あたしも男に名前を聞いた。
すると男の顔から笑顔が消え、言いにくそうに答えた。
「それがさ…名前が分かんねーんだよ」
「えっ……」
つらそうに下を向く男。
自分の名前さえ分からない今の状況が、悲しいに違いない。