突然現れた王子


あたしは返答に少し戸惑った。


こんなとき、
上手い言葉が浮かんでこない自分が嫌になる。

何かいいことを言おうとしても、頭が真っ白になるだけ。


だからあたしは思ったままを口にした。


「ケイタはケイタだよ」

「え?」


ケイタは驚いたような反応をした。

あたしは暗闇でよく見えないけれど、顔をケイタに向けて話した。


「たとえ記憶がなくても、他にケイタ自身がいたとしても、今ここにいるケイタだって本当のケイタだよ」


ケイタには伝わっただろうか?


本当の自分なんて、考えなくていいんだよ。

どんな状態でも、ケイタはケイタなんだから。




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