夢の欠片
図書館は電車で三駅ほどの場所にあり、着くまでにそう時間はかからなかった。


とにかく夢に関する論文や評論などを洗い出し、気になったところはじっくり見たりして、可能な限り調べ尽くした。


それで分かったことがいくつかある。レム睡眠だと夢を見るなどはどうでもいいこととして、気になったことは、「夢の内容は潜在意識と密接に関係している」ということ。そして、似たようなことではあるが、「海馬という脳の一部が、寝ている際に記憶を整理するのだが、その時にその一部を適当に合成したのが夢である」ということだ。


もしそれが本当であるなら、俺の場合は無くなったはずの記憶を、潜在意識から整理して蘇らせているのではないだろうか。


全てが正しい事実とは断言できないが、少なくとも母さんが出てきた時の夢は、完全に事実だ。


あの時、俺は記憶を失くして自分が何をしたらよいか分からず、一週間ほど公園の水だけを飲んで生きていた。そして、このままこういう生活をしていくんだなと思うと絶望して、自殺しようかな、と店の屋上駐車場から身を乗り出していた時に、母さんから抱きしめられたのだ。


その時の夢で感じた温かさは、母さんの体温だ。それが完全な事実だから、他の夢もそうでないかと疑ってしまうのだ。


「死ね」と何度も言っていた夢が最も気になる。あの時の声は、俺なのだろうか。俺だとしたら、いったいどれほどの恨みを持っていたのか、そしてそれは誰なのか。


そう思うと、思い出すのが少し恐ろしくなった。
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