夢の欠片
「やめろぉぉ!!」


「羚弥君! 大丈夫!?」


目を開けると由梨と母さんが俺の顔を覗いていた。


「はぁ、はぁ……いや、酷い夢を見た……」


「そう……ひどくうなされてたよ?」


由梨が心配そうな顔で俺の顔を覗き込む。


「ただの夢だ。母さんも由梨も、心配しなくていいよ」


「羚弥……無理しないでね?」


「ああ。ありがとう、母さん」


「じゃ、朝食作りに行くわ。由梨ちゃんも手伝ってねー」


「う、うん」


二人が部屋を出ていくのを見届けた後、俺は黙って自分の熱かった腕の部分を見た。そこには、大きな火傷の古傷があった。


「バカな……」


あの少年の声は……俺なのだろうか。だとしたら、あのガスバーナーを持った男の声はいったい……


俺はしばらく、その古傷を黙って見つめていた。


「ご飯できたよー」


母さんの声が聞こえて、俺は食卓へ向かった。


既に母さんも由梨も椅子に座っていて、食べる準備は万全のようだった。


俺も席に座ると、母さんの「いただきまーす」で食べ始めた。


「今日は土曜日かー。何しようかなー」


相変わらず呑気な母さんに、すかさず俺が突っ込みを入れる。


「いかにも休みだーって感じで言ってるけど、母さんにとっては全ての日が休みのようなもんだろ」


「まー、そうなんだけどねー。由梨ちゃん何かやりたいことない?」


話が由梨に振られたことで、俺は『そうか、休みか』と思い直した。


もし、あの夢の少年が俺なら、夢について調べれば、俺の記憶について何かが分かるかもしれない。


「普通の人って休みは何するの?」


図書館にでも行ってみるか。


「え、ドライブとか、買い物とか? 私もそんなに普通の人じゃないからねー。いっつも休みだから何して過ごせばいいか分からなくなることが時々あるよ」


母さんが笑いながらそう言ったところで、俺は話を切り出した。


「ねえ、母さん。今日図書館行ってくるわ」


「え、珍しい。勉強でもするの?」


「まあね」


「うわー、雪でも降るんじゃないかしら」


サラッといじってくる母さんに「失礼だぞ!」と言って、俺は席を立った。


「ごちそうさまでした」


「気をつけて行ってくるんだよ」


「うん、ありがとう」


それから俺は、洗顔や歯磨きなどを済ませ、財布と鍵を持って家を出た。
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