金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「――――うわぁ、綺麗……」
夕暮れの柔らかなオレンジの光の中で、そよそよ揺れる黄色い菜の花たち。
先生が私を連れてきたのは、そんな景色の広がる菜の花畑の前だった。
「日が沈む前に来られてよかった」
路肩に車を止め、二人で車を降りて一面の黄色を眺めた。
隣の先生を見上げると、目の端がまだ赤くって、潤んだ瞳が菜の花を映している。
「……三枝さん」
「はい」
「さっきは、ありがとう」
……さっき?
私先生に何かお礼を言われるようなことしたっけ?
「……ティッシュですか?」
それくらいしか思い当たることがなかったから真面目に聞いたつもりなのに、先生はふっと笑って首を横に振った。
「ティッシュが必要になっちゃうくらい、三枝さんが嬉しいことを言ってくれたから、それにありがとうって、言ったんです」
「私……何か言いましたっけ?」
「言いましたよ。興奮してたから覚えていないかもしれないけど、岡澤先生に向かって、僕をたくさんほめてくれました」