金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

車に戻ると思った以上に疲れていて、私はシートに深くもたれてため息をついた。



「お疲れさま。よく、頑張ったね」


「先生……。先生が、一緒に居てくれたからです」



私が言うと、先生はなぜか私から目をそらしてシートベルトをせわしく閉め始めた。



「あの……ちょっと寄り道してもいいかな?ちゃんとお家には送り届けるから」


「寄り道……?」


「……うん、ちょっともう、我慢の限界で」



先生の声が震えていたので慌てて顔を覗き込むと、目を真っ赤にして何度もまばたきを繰り返していた。

な……泣いてる!?



「なんで、先生が泣いて……!」


私は驚きつつ、カバンからポケットティッシュを出して差し出した。



「……ありがとう。あまり見ないで下さい、カッコ悪いから」



先生は盛大に鼻をかむと、ふう、と息をついてエンジンをかけた。



「寄り道って、どこに行くんですか?」


「……秘密です」



先生は、鼻の頭を赤くしながらにっこり微笑んだ。


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