金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「三枝、ごめ……」


「――――見つけました!!」



その場に急に響いたのは、私たち以外の声。

私も土居くんも、驚いて声の主を見る。



「恩ちゃん……」


「せん、せ……」



心臓が止まるかと思った。


だって……だって……

どうして、先生がここに……?



「三枝さん……だめじゃないですか。今日は補習の約束なのに、こんなところに逃げたら……」


「私、逃げてなんか……」



逃げてない、というか。

そもそも、補習の約束って……?


頭の中にはたくさんの疑問符が浮かんだけれど、それよりも私の中に広がっていくのは大きな安堵の気持ち。


先生が来てくれて、よかった……

土居くんへの恐怖心が、少しずつ波が引くように、消えていく気がする。



いきなりの先生の登場に戸惑ったのか、私の手首を解放してくれた土居くん。

私はゆっくり立ち上がって、手の甲で涙をぬぐって言う。



「土居くん……本当に、ごめんなさい」


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