金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「いや……こっちこそ、ちょっと焦りすぎた。……俺、帰るわ」
土居くんは私の方を見ることなく、雨の中を飛び出していく。
水を踏みつける足音が遠ざかっていき、そしてすぐに聞こえなくなった。
すると今度はごく近くで、同じ音がした。
先生が、こちらに向かってくる音だ。
彼の足元から徐々に視線をあげていった私は、その姿を見て胸がぎゅうっと締め付けられた。
どうして……
先生、ずぶ濡れなの……?
「……学校中を探しました」
濡れた前髪を掻き上げながら、先生が言う。
少し怒っているような表情をしているのは、私が補習をさぼったから……?
「あの、補習って……」
「あれは嘘です。そんなこともわからなかったんですか?」
「……すいません」
やっぱり、怒ってる。
だけど、どうして……
「きみは、無防備すぎます」