金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「……僕は。自分の鈍感さと能天気さのせいで、一番大切な人を失ったんです」
雨の音が遮断され、静かな先生の声だけがこの場に響いている錯覚に陥った。
「きみに必要以上に世話を焼いてしまうのも……きっと、まだそのことを後悔しているからなんだろうな。
ごめんね、何だかいつもつきまとってるみたいで」
私は黙って、首を横に振った。
そんなこと、思ってないから謝らないで……
それよりも私は、先生の“一番大切な人”に嫉妬する気持ちでいっぱいいっぱい。
自分から聞いたくせに、聞かなければよかったと思ってる。
でも、“失った”って、どういう意味……?
「その人は、今……」
「わからない……いや、本当はわかっているのに、理解したくないだけかもしれない。
彼女はもう、この世にいないのに……心のどこかで、いつも待ってるんだ。元気な顔でいつも通り、会いに来てくれるんじゃないかって」
――――私の、ばか。
助けたいなんて、身の程知らずにもほどがある。
先生はずっとその人を忘れられなくて、私の入る隙間なんてこれっぽっちもないんだ――――……