金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

――――前にも一度、先生のこんな表情を見たことがある。


口では私を心配するようなことを言うのに、先生の方が、なぜだか泣きそうで……


その時はたしか、こう言ってた。



『僕は、もう見逃したくないんです……助けを求めている人の、どんな小さなサインも』



あの時は深く考えなかったけれど、今思い返すと引っ掛かることがある。


“もう見逃したくない”


その“もう”の後には、“二度と”が隠れているんじゃないかって……



「先生は、何を抱えて、そんなにつらそうな顔ををしているんですか……?」



私は思わず聞いてしまった。

きっと先生には何か後悔するような過去があるのだと、ほとんど確信に近い思いが生まれていた。

それなら、私も先生を助けたい。

いつものお返しに、何か役に立ちたい。



「――――僕は」



先生は、瞳を伏せた。


私はごくりと息を飲んで、次の言葉を待つ。


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