金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
――そっか。
先生がいつも花を大切にするのは、優しい瞳で見つめるのは、花を通してそこに小夜子さんを見ていたからなんだ……
そう納得する反面、やっぱり私では太刀打ちできないほど先生の中で彼女の存在が大きいことを思い知らされて、鈍く胸が痛んだ。
「順調に交際を続けて、二年が経った頃プロポーズしました。もちろん小夜子も喜んでくれて、周りからも祝福されて……
その時には小夜子にセクハラしていた先生も別の学校に異動になっていたし、僕は何の問題もないと、浮かれていたんです」
遠くを見るように、けれど焦点は定まっていないうつろな瞳で先生が言う。
「式を挙げて、ささやかだけど披露宴もして……その夜は二人とも疲れて、すぐに寝てしまいました。
だけど翌日からの旅行で、僕は小夜子を抱こうと決めていました。それまでずっと我慢していたので、夫婦になったんだからいいだろうって、少し強引な気持ちもありました」
涙声になる先生。
きっと、核心が近いんだ。
結末はもう知っているだけに、私の瞳にも涙がこみ上げてくる。