金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
その夜、私は部屋に居るのがつらくなって、ホテルの庭を散歩していた。
有紗も菜月ちゃんも、なにも聞いてこないけど……
だからこそ私と何を話したらいいのかわからないみたいで、ずっと沈黙が続いてしまっていたのだ。
「ごめんね……」
熱帯の植物がたくさん植わった庭の端っこで私はそう呟き、夜空を見上げる。
自分を心配してくれる人に誠意で応えられないのは、すごくつらい。
でも、私は決めたんだ。先生と一緒に歩くって。
卒業したら、きっと誰にも何も隠さなくてよくなるから……それまでの辛抱だ。
きゅっと唇を引き結んで決意を新たにした私は、部屋に戻る途中でビーチに人影を見つけた。
先生……?
白い砂浜に腰を下ろして海を見つめる男の人。
ゆっくり近づいてみるとやっぱりそれは先生で、側には大きなお酒の瓶が置いてあった。