金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「先生……?」
背後から控えめに声をかけると、くるりと振り向いたその目はなんだかいつもと違っていた。
怒っているような泣いているような、充血した赤い目……
「――――小夜子?」
「――――え」
「小夜子なんだろ?」
じゃり、と音を立てて先生が立ち上がる。
その動作が少しよろよろとしていて、酔っているのかもしれないと思った。
「逢いたかった―――……」
先生はものすごく強い力で、私を抱き締めた。
ふわりと鼻をくすぐるのはやっぱりお酒の香り……
酔いのせいで、先生は私を小夜子さんと勘違いしているみたいだ……
「先生、私……」
千秋です、と言おうとして……途中でやめた。
だって、先生の肩が震えている。
小夜子さんに逢えたのが嬉しくて……泣いてる。