金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
なおも突き刺さる視線に耐えていると、助けに来てくれたのはやっぱり彼だった
「――三枝、これ食わないならくれ」
「土居くん……うん、作ってくれた人に悪いなって思ってたからちょうどよかった」
「はは、そういうの三枝らしい」
丁度空いていた私の隣の席の椅子を引いて、いただきます、と元気よく言った土居くん。
「うまいのに、もったいない」
今は、こうして呑気に笑ってくれる人が側に居るのがありがたかった。
泣きたい気持ちが静かに引いていく。
「午後の植物園、一緒に回ろうな」
「一緒にって……当たり前だよ、同じ班なんだから」
私が言うと土居くんは箸を止め、テーブルの向い側に座る有紗と菜月ちゃんをちらりと見やった。
「あーはいはい、私たちは私たちで勝手にやればいいんでしょ。小林たちにもそう言っとく」
面倒臭そうにそう答えたのは有紗だ。
「……さんきゅ。つーわけだから三枝、よろしくな」
「え、あの……」
「短い時間だけど、二人で一緒に居ような」
……まるでカップルのような会話に、思わず頬が熱くなる。
と、同時に先生がこのやりとりを見ていただろうかと気になって、さっきまで彼の座ってた席を見たけれど……そこはもう、空席になっていた。
ほっとしたような、見ていて欲しかったような……そんな矛盾した気持ちが心の中で混じり合っていた。