金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「……向いてない、ですか?」


いつまでも反応を示してくれない先生に痺れを切らしてそう尋ねると、先生ははっとしたように姿勢を正してこんなことを言った。



「……ゴメン、白衣を着た千秋のいる保健室を想像して、ちょっと脳内が桃色に……」


「先生……真面目に相談してるんですけど」



呆れて先生を見ると、ゴホンと咳払いをしてから、今度はちゃんと答えてくれた。



「とても、いいと思います。優しい千秋にぴったりの進路ですね。

ただ、教育のことだけでなく医学的なことについても学ばなくてはなりませんから、教育学部の中でもレベルは高い方になります。
どの大学に行くかにもよりますけど、今よりもう少し理数系の科目を頑張った方がいいかもしれませんね」



私の成績表を見ながら、そう言った先生。


理数系か……苦手だけど、頑張らなくちゃ。

気を引き締めるためにきゅっと唇を噛んでいると、先生が穏やかな声で言う。



「大丈夫ですよ。千秋なら、きっと」



その声に優しく撫でられた心は、安心を取り戻してくれるけれど……



「受験の時は……大丈夫って言ってもらえないんですよね」


「……千秋……」


「今はまだ、先生がいなくなるなんて想像できないししたくないですけど……受験の時までには、一人でも頑張れる自分にならなくちゃ……」



そうならなきゃ、だめなんだ――――


ちゃんと自分の足で、自分の未来を決めるために……


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