金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
――――おめでとうございますって。
よかったですねって、言わなくちゃ。
そう思うのに、口が上手く動いてくれない。
『……勉強の方はどう?』
「え、あ……今、有紗と菜月ちゃんと私の家でやってます」
『そうか……じゃあ今日は逢えないんですね。この通知を見たら無性に千秋に逢いたくなってしまったのですが』
「ごめんなさ――――」
「恩ちゃん!千秋なら今からそっち行かせます!」
気が付くと、私の手の中から携帯が消えていて。
代わりにそれを握っているのは有紗だった。
「もう時間がないんだから、二人は逢いたいときに逢うべき!それで少し受験勉強が遅れたからって大学落ちる千秋じゃないよ!」
ため口で、まるで先生にお説教するように言う有紗。
ぽかんとする私に、菜月ちゃんが優しく告げる。
「私たち、帰るから……先生の所に行ってあげて?」
「菜月ちゃん……」
「それから、これは木村先生からの助言なんだけど……」
菜月ちゃんが、私の耳元でこっそりと囁いた言葉で、私は沸騰したように体中熱くなってしまった。
だって、そんなこと……
私にできるのかな……?