金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
しばらくの間みんな黙ってしまって、気だるい空気が部屋に充満した。
それが嫌で、お母さんに何かお菓子でも持ってきてもらおう、と思い私が立ち上がった時だった。
「千秋、携帯鳴ってる」
ベッドの上に放ってあった私の携帯が、ブブブ、と震えながら音を立ててた。
「恩田先生だったりして」
冗談のつもりで言ったらしい菜月ちゃんだけど、私は光る背面ランプの色でそれが正解だということがわかっていた。
ピンク色に光るのは、先生からの電話の時だけだから……
有紗と菜月ちゃんの前で先生と話すのは恥ずかしいとも思ったけど、廊下だとお母さんに聞かれるかもしれないし……私はその場で、電話に出た
「――もしもし」
『……久しぶりですね。暑さで体調を崩したりしてませんか?』
「大丈夫です。先生は?」
『僕も元気ですよ』
ほっとして、それから声が聴けたのが嬉しくて顔を綻ばせた私。
でも、それに続く言葉が私の胸をきゅうっと締め上げた。
『審査の結果が届いたんです……正式に僕を採用してくれると。来月の後半から研修があって、発つのは10月になるようです』