Enchante ~あなたに逢えてよかった~
夜なのか昼なのかわからなくなるほど飲み、眠る。
そんな生活を食事もろくに摂らないで続けていた絢子は
貧血と栄養失調から倒れてしまった。
秘書から知らせを受けた伸吾は、急ぎ帰宅したものの
絢子は伸吾の姿を見るやいなや拳を振り上げ罵倒した。
伸吾は無抵抗のまま彼女の怒りを全身で受け止めた。
「何をしに来たのよ!」
「倒れたと聞いたから・・・」
「私がどうなろうが貴方にはどうでもいいことでしょう!」
何度となく振り下ろされた拳にはまるで力を感じなかった。
手加減をしているのではない。
それほどに絢子の身体は衰弱していたのだった。
はあはあと全身で呼吸をし始めた絢子の肩を支えるように掴んだ伸吾は
その細さに驚き、胸が痛んだ。
「いいわけがないだろう。心配したぞ?・・・大丈夫なのか」
「嘘ばっかり!ずっとずっと私のこと騙して。もう嘘はたくさんよ!」
「いいから横になれ。無理するな。フラフラしてるじゃないか」
「放っておいて!触らないでよ!バカ」
夫のその無抵抗さが自分に対する憐れみに思えて
居た堪れなくなった絢子は部屋を飛び出した。
でも体力が消耗しきっていた絢子の動きは鈍く
降りようとした階段の手前で伸吾に腕をつかまれてしまった。
「待て」
「放して!」
「絢子!」
「いや!!」
渾身の力で伸吾の腕を振り切った余勢で足元がふらついた絢子は
階段を踏み外した。
「絢子!!」
「きゃ・・・」
「危ないっ!」
一瞬、宙に浮いた絢子へと伸ばした伸吾の腕は虚しく空を掴んだ。
絢子の身体は階下へと転落した。
「絢子ーーっ!」