Enchante ~あなたに逢えてよかった~

「たかが女の一人くらいで そう騒ぐものではないよ。
男の甲斐性だと思える度量がなくてはいかん」


事も無げに義父に言われ、絢子は唖然とした。
外に女が居るだけでなく、子が生まれてくるというのだ。
騒いで当然のことだ。黙っているわけにはいかないと思った絢子は
男の甲斐性などという都合の良い言葉で片付けてしまおうとする義父に
猛然と食い下がった。


「女の存在を認めろと仰るのですか?!」

「いや、認めろといわんよ?知らないフリをしていればいい。
生活や仕事に支障がなければ問題はなかろう?」

「そういう問題ではありません!」

「いいや、そういう問題だよ」

「お義父さま!」

「まあまあ、少し落ち着きなさい」



義父は宥めるように絢子に声をかけた後
義母に何か飲み物を持ってくるようにと頼んだ。


「いいかね?絢子さん。高城家の嫁で、伸吾の正妻は貴女だ。
伸吾が外で何人女を作ろうが、その座は揺ぎ無い。
そして高城家の跡取りは貴女が産む子だけだ。
あちらの子については、認知しなければいいだけのこと。
もっと大らかになりなさい」

「でも!」

「伸吾だってそれはよく分かっているはずだ。
承知の上で産むと決めた子なんだろうから、高城とは無縁の子だと
腹も括っているよ。大丈夫だ。貴女はどっしり構えていなさい」


「そうよ?絢子さん」


穏やかな微笑を浮かべた義母が
お茶の支度を整えて戻ってきた。
絢子の隣に座って、優しいハーブの香るカップを手渡した。


「貴女も母親になるのでしょう?
子どもの為にもそんな事で騒いだりするのはやめなさい。
もちろん、別れるなんて馬鹿なことも言い出さないでね」


妊娠したことはまだ義母には告げていなかった。
おそらく秘書から聞き出したのだろう。
義母は表向きには息子夫婦のプライバシーには踏み入らない
良い姑風を装ってはいるが、定期的に秘書に探りを入れ
あれこれ聞き出しているのを絢子は知っていた。



「安心なさい。貴女とお腹の子どもはお父さんと私が守るわ」

「そうだな。いざとなったら伸吾を追い出せば良い」

「まあ。お父さんったら!」


最後は笑いで締め括られ、取り付くしまもなかった。
女であり妻である義母にまで「そんな事」と軽くあしらわれ
気持ちのやり場を失った絢子が逃げた先はアルコールだった。


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