キスから魔法がとけるまで


「君、華がないんだよね?」

そう言われて落ちたのは、もう何度目だろう。

「あ、あの……でも、やる気はあるんです。ここを落とされたら私……頑張りますから」

そう言われましてもね、と困った様子で頭を掻く面接官。

「佐伯さん、確かに真面目で成績も評価されていますよね。でも、なんと言うか覇気がない。明るさが足りないんですよ」

「明るさ……ですか」

「勿論、仕事が出来る人間は必要ですが、我が社としては団結力が不可欠でして、協調性や性格柄明るい人材を求めてるんですよ。申し訳ありませんが、佐伯さんは……」

ここまで言われて解らない人間はいないだろう。私は根暗という理由で落とされたのだ。


改めて化粧室の鏡で身なりを整える。

生まれて一度も染めた事もない真っ黒なロングヘアーを、後ろに束ね直すと、思わず深い溜め息が漏れた。
黒のスーツ(パンツ)に、瓶底眼鏡。

このスタイルの何が駄目だというのだろうか。

極度の冷え性の為、スカートではなくパンツ。
視力が悪い上に乱視も入って面倒な故の瓶底。
それなりに理由がちゃんとある。
男受けしないとわかっているが、そもそもスカートやら肌を見せて、媚びるつもりもさらさらない。


< 3 / 34 >

この作品をシェア

pagetop