INそしてOUT
「どうにかしろよ」
怒っているのか泣いているのか……僕にはその判断が出来なくて、何て返事をしていいのかわからない。





姉が通り魔に刺された事を聞いたのは、バイトが終わり、独り暮らしのアパートに帰る途中の出来事だった。

頭を真っ白にさせて病院に走り、泣き叫ぶ母の声を探りながら部屋に入ると

もう
姉は死んでいた。

会社からの帰宅途中。
通り魔に固いもので頭を殴られた後、胸を3·4回刺されて即死。

犯人は行方不明と警察の人は言ったけど、僕にはすぐわかった。

姉のお通夜の夜
目の前の男が現れ
その男の隣りにいたのは、死んだ本人だったから。

男は焼香をしながら、傍にいる姉と遺影を見比べていた。僕もつい男と同じ動作になると、伯母に『きょろきょろするな』と小言をもらってしまった。

姉の姿は
僕と男にしか見えないようで、姉は自分の遺影をしみじみ見つめてから僕に視線を寄せる。

そして
少し照れたように
笑って小さく僕に手を振った。

僕はこっそり手を振り返し
会場を去る男を走って呼び止め、息を切らしながら後ろに隠れている姉に話しかけた。

「この人に殺されたの?」
と……。

すると

姉はうなずいて

寂しく笑った。
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