ラララ吉祥寺

「芽衣さん、今晩は木島さんの提案で湯豆腐です。

ちょっと薬味が足りないので、西友まで買い物行って来ますね。

芽衣さんは、何かいるものありますか?」

「ヨーグルトお願いできますか?

ダノンの「デンシア」ってやつです。

一日に必要なカルシウムの半分が取れるそうなんで」

昼食後、わたしが買ってきた「初めてのたまごクラブ」を読みふけっていた芽衣さんが、おもむろに顔を上げていった。

この雑誌を見つけるなり、

「文子さん、恥ずかしくなかったんですか!」

と芽衣さんに呆れられたわたしだけど。

「なるほど、今必要な情報が面白いほど手に入るんですね。

ちょっと過保護気味って感じもしますけど」

と結局は感謝されたのだ。

わたしは恥ずかしくって買えませんでしたよ、さすが年の功ですね、なんて憎まれ口をきく程に気力も戻ってきたようで安堵した。

「じゃ行ってきます。直ぐ戻りますね」

わたしはそう言い置いて家を出た。

本当は、芽衣さんを一人家に残して行くのは少し心配だったのだけれど。


通りへ出ると、スーツ姿にアタッシュケースを持った男性が地図を片手に辺りを見回しているのを見かけた。

セールスマンにしては身なりが良すぎる。

家探しかな、なんて思いながらその横を通り過ぎた。
< 115 / 355 >

この作品をシェア

pagetop