ラララ吉祥寺
わたしは朝食の片づけを済ませると、ファクスを確認し、何点かのイラストを午前中に完成させた。
昼食は軽く卵とじうどんを食べ、身支度を整えて芽衣さんの待つ病院へと向かう。
先ずはガラス越しにベビーにご対面。
一日たっただけなのに、随分とはっきりとした顔立ちにになっていて驚いた。
対して芽衣さんはというと。
昨日の疲れか、寝不足か、少しやつれた芽衣さんが気になった。
「お乳をなかなか飲んでくれなくて……」
わたしのやり方が下手なんですけどね、と芽衣さんが俯いて自分の胸をさすっている。
どうやら彼女の目下のストレスは、授乳の悩みのようだ。
「赤ちゃんって、生まれたら直ぐおっぱいを上手に飲めるものだと思ってました。
だって、動物の赤ちゃんはみんなそうでしょ?
乳首を咥えるとこから難しいって、想定外ですよ。
だいたい、わたしのおっぱいって出てるのか、出てないのか……
胸の大きさと母乳の出は関係ないんですね。
こんなんで退院してから、ちゃんと育てられるのかな……」
この胸は見かけ倒しなんですよ、と芽衣さんは大きく溜息をついた。
「大丈夫ですよ、まだ二日目でしょ。
それに最悪、粉ミルク、って手もあるんだし。
気楽にいきましょう、芽衣さん」
わたしの慰めの言葉なんて、たいして意味を成すとは思えなかったけれど。
彼女の気落ちが、これからの子育ての重圧を物語っているように思えてならない。
人間一人の命を預かる責任というか、焦りというか。
「だよね、焦りは禁物。精神的なものも母乳の出に関係するって言われてる」
と、最後は笑顔になった芽衣さんだけれど。
次の授乳の時間が間近に迫り、わたしは不安を残したまま、また明日きますね、と病院を後にした。