ラララ吉祥寺

病室で、木島さんは淡々と、昨日芽衣さんの兄と名乗る男が下宿に訪ねて来た、と話し始めた。

彼が、芽衣さんをずっと探していたこと。

芽衣さんの妊娠をどうやら知っていたらしいこと。

事情がわからないので、取り敢えず芽衣さんは暫く旅行で留守にしている旨だけ伝えてお引取り願ったこと。

「それで良かったですか?」

そして最後に、木島さんが念を押すように芽衣さんに確認した。

「もしまたいらしたら、何と説明すればいいでしょう?」

芽衣さんは何故か冷静だった。

「ご迷惑おかけしました。いろいろお気遣い頂いてありがとうございます」

木島さんの問いかけに、芽衣さんはベッドの上で大きく身体を折り一礼した。

「退院したら、兄に手紙を書きます。

子供のことも含め、今後、皆さんにご迷惑がかからないよう、きちんと事情を伝えます」

そして、そう答えた。

あんまり毅然とした態度なので、こちらの方が畏まってしまう程だった。

まるでこうなることを予め心得ていたような。

「わかりました」

木島さんは一言そう頷いた。
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