一夜花
 薄暗んでゆく部屋の中で、二人は明かりすらつけずに寄り添っていた。
 今宵しか許されない温もりを心に刻むように、ただ押し黙って……

 開き始めた花弁からは宵闇の芳香が零れ落ちる。

「ねぇ、月、今ならまだ……花に戻れば間に合うはずだ」

 薄情に迫る夜を恐れて、男の声は震えた。

「今年は交配用の別株も用意してある。俺とじゃ、実をつけることは出来ない。せっかく花開く本来の意味がなくなってしまうだろう」

 開く花びらが擦れ合う音も、震えている。

「私が開く意味はたった一つ」

 月の声だけは震えない。
 強い決意と覚悟と、そして愛情に満たされて響く。

「好きだから。好きな人のために、ただ咲きたい」

「つきっ!」

 浩一は自分のために咲こうとする花を、強く抱きしめた。

 花の芳香が、より強く漂いはじめる。
 最も特別な、たった一夜のために……
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