それでも、愛していいですか。
「すみませんでした」
奈緒はこれ以上腰が曲がらないというところまで頭を下げた。
「朝ご飯、食べますか」
「え?」
思いもよらない問いかけに思わず頭を上げた。
「大したものはありませんが」
「……は、はい」
阿久津はフライパンにハムと卵をのせて蓋をし、食パンを二枚トースターに放り込んだ。
インスタントコーヒーの入ったマグカップにお湯をそそぐと、コーヒーの香りがリビングに広がった。
奈緒は部屋を見渡した。
天井まである本棚には民法関連の本が所狭しと並んでいる。
木目調のダイニングテーブル、二人掛けのソファ、優しい色のカーテン。
阿久津のクールなイメージと、あたたかい部屋の雰囲気が不釣合いだった。
ここに以前は女性も暮らしていたことが、このリビングから感じられた。
リビングから繋がっている和室にふと目をやると、そこには小さな仏壇とたたまれた布団があった。
おそらく昨夜はここで寝て、ベッドを自分に譲ってくれたのだろう、それを見て阿久津の優しさに胸がきゅっとした。