それでも、愛していいですか。
ふと仏壇に目をやると、写真が二つ立てかけてあった。
一つは奥さんと思われるもの、そしてもう一つは赤ちゃんの写真だった。
胸に重い衝撃が落ちた。
……先生には、子供も、いた?
奈緒はそこから目を離すことができなかった。
さっきのあの部屋を思い出した。
あの部屋は開けてはいけなかったんだと、今やっとわかった。
呆然と立ち尽くす奈緒を見て、阿久津は深呼吸をした。
「……息子がいたんです」
阿久津は両手に持っていたマグカップをダイニングテーブルの上に置いた。
阿久津の哀しみが、自分の想像をはるかに超えていたことに気づき、言葉がなにも出てこなかった。
「9ヶ月でした。病気でね」
淡々と話す様子がよけいにつらかった。
「……拝んで、いいですか?」
とっさに出た言葉は、それだった。
「……ありがとう」
奈緒はおそるおそる小さな仏壇の前に立った。
自分の実家にあるような昔からある仏壇ではなく、小さくてシンプルなものだった。