それでも、愛していいですか。
「でも決めるのは相沢さんです。それでも挑戦してみたいなら、そうすればいいと思います。相沢さんの人生ですから」
決めるのは、自分。
私の人生。
その言葉がいやに重くのしかかった。
今までそんな強い決意で、なにかを決断したことってあっただろうか。
奈緒はうつむいたまま黙々と歩いた。
その時、ふと気がついた。
すらりとした長い足は、私ののんびりな歩調に合わせてゆっくり歩いてくれていたことに。
いつも、この黒い革靴は、カツカツと軽快な音をたてている。
しかし今は、いつものリズムよりずいぶんゆっくりだった。
先生は、優しい人。
歯の浮くようなことは言わないが、こうしてさりげなく手を差し伸べてくれる。
こうして、先生の隣りにずっといられたら、どんなに幸せだろう。