それでも、愛していいですか。
ゼミが終わった研究室で、阿久津は部屋を片付けていた。
ふと会議机の下に目をやると、プリントと携帯があった。
どうやら学生が忘れていったらしい。
その席に座っていたのは、奈緒だった。
阿久津はプリントと携帯を机の下から取り出すと、自分の机の上に置いた。
その時、研究室の扉を誰かがノックした。
「どうぞ」
奈緒が忘れ物を取りに来たのだろうと思いながら扉の方に目をやると、そこには美咲が立っていた。
思いがけない客に阿久津は向き直る。
「あれ」
「今、いい?」
「少しなら」
「ありがと。ちょっと近くまで来たから。のぞいて行こうと思って」
美咲は研究室をぐるりと見渡した。
「涼介さん、本当に学者さんなんだね」
そう言いながら、壁一面にある本を指でなぞる。
「これ、全部読んだの?」
「全部というわけではないけど」
「すごいね。背表紙見るだけで逃げたくなるわ、私なら」
美咲は天井まである本棚を見上げた。