それでも、愛していいですか。

確かに涙を見せてしまったが、そこまで心配されるほどではない。

決して不安定ではないし、バイトのある日はいつもこのくらいの時間に帰宅している。

なぜ、そこまで心配してくれるのだろう。

送ってもらえることは嬉しかったが、頭の中が疑問符だらけになってしまった。

「なにか?」

阿久津はいつもの無表情でこちらを見ている。

わからない。

阿久津准教授という人が、まったくわからない。

「い、いえ。ありがとうございます」

「行きましょう」

「はい……」

奈緒はブランコから立ちあがると、阿久津に促されるまま公園を出た。

住宅街の道は、公園の中とはうってかわって街灯と家の明かりだけで薄暗く、そして人通りもない。

その薄暗い道を、無言のまま二人は歩いた。

たまに車が二人の横を通りすぎていく。

車のヘッドライトがとても眩しかった。

なにを話せばいいのだろう。

この沈黙が息苦しい。

奈緒はこの沈黙を破るために、気づいたことを尋ねてみた。

< 52 / 303 >

この作品をシェア

pagetop