それでも、愛していいですか。

そしてその隣りには、黒いポロシャツにジーパンというラフな格好をした阿久津がいた。

美咲の髪はきれいに結われていて、気合の入っている様子がわかる。

じっと二人の背中を見つめていたせいで、加菜も阿久津と美咲の存在に気づき、「あ……」と遠慮がちに言葉を漏らした。

奈緒は前を見つめながら、平静を装う。

「前に、阿久津先生と女の人が一緒にいたって話したことあったじゃない?」

「うん」

「あの時の人だよ」

「ああ、あの人だったんだぁ」

加菜は美咲を見つめたまま、納得したように何度もうなずいた。

「……あの人、多分、阿久津先生のこと、好きなんだと思う」

「え、どうして?」

そう加菜に言われて、どこまで話そうかいろいろ考えたが、

「絶対秘密だよ」

と言って、阿久津が自分の妻を殺した、と言ったことや、美咲と知り合ったいきさつを簡単に説明した。

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